高齢者の横隔膜呼吸トレーニングで歩行と転倒不安は改善するか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:高齢者の横隔膜呼吸トレーニングで歩行と転倒不安は改善するか?
  • 英語タイトル:The effect of diaphragmatic breathing and diaphragmatic mobilization on physical performance, fear of falling, and quality of life in community-dwelling older adults: A randomized controlled trial.

このテーマは、リハビリテーション(Rehabilitation:けがや病気のあとに、体の機能や生活動作を取り戻すための訓練)や整形外科(Orthopedics:骨や関節、筋肉など運動器の病気をみる診療科)の外来で、よく話題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、日常の診察でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

地域在住高齢者とは、施設ではなく自宅などで生活している高齢の方を指します。このような方では、転倒(転んでしまうこと)がきっかけで外出や活動量が減り、その結果「また転ぶのではないか」という転倒不安が強くなり、生活の質(QOL:Quality of Life、生活の満足度や快適さのこと)が下がることが知られています。
横隔膜(Diaphragm:胸とお腹の間にある大きな呼吸の筋肉)をしっかり使う横隔膜呼吸(Diaphragmatic Breathing:お腹をふくらませるようにして行う深い呼吸)と、横隔膜モビライゼーション(Diaphragmatic Mobilization:横隔膜周囲を手でやさしく動かして柔らかくする手技)が、体幹の安定性(体の中心をまっすぐ保つ力)や歩行能力を高める可能性があるのではないかと考えられ、この点を確かめることが目的とされました。

調査の方法(対象など)

65〜75歳の地域在住高齢者54名を対象にしました。参加者を無作為割付(Randomization:くじ引きのように、偶然に任せてグループ分けする方法)で3つのグループに分けました。
1つ目は横隔膜呼吸だけを行う「横隔膜呼吸単独群」、2つ目は横隔膜呼吸に加えて横隔膜モビライゼーションも行う「横隔膜呼吸と横隔膜モビライゼーション併用群」、3つ目は特別な横隔膜トレーニングを行わない「対照群」です。
この3群を比較するランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:治療法の効果を公平に比べるための研究方法)として調査が行われました。

研究の結果

横隔膜トレーニングを行ったグループでは、Timed Up and Go(TUG、タイムド・アップ・アンド・ゴー:椅子から立ち上がり、少し歩いて戻って座るまでの時間を測る起立歩行テスト)と歩行速度が改善しました。
また、転倒恐怖(Fear of Falling:転ぶことへのこわさ)、疲労(Fatigue:だるさや疲れやすさ)、QOL(Quality of Life:生活の質)も統計的に有意に改善していました。
一方で、mini-BESTest(Mini-Balance Evaluation Systems Test:バランス能力を細かく評価する検査)と5回立ち上がりテスト(Five Times Sit-to-Stand Test:椅子から立ち座りを5回繰り返す速さを見るテスト)については、改善はみられたものの、その程度は限定的と報告されています。

結論:今回の研究でわかったこと

今回の研究から、高齢者が横隔膜呼吸トレーニング(Diaphragmatic Breathing Training:横隔膜を意識して行う呼吸の練習)を行うことで、歩行能力や転倒に対する不安が改善する可能性が示されました。
一方で、バランスの指標(mini-BESTestなど)に対する効果は、みられても限られた範囲にとどまると考えられました。

実際の診察ではどう考えるか

外来診療の場面では、横隔膜呼吸トレーニングは、高齢の方の歩く力や転倒への不安、疲労感の改善に役立つ可能性があると考えられます。
ただし、転倒予防という点では、横隔膜呼吸だけではなく、下肢筋力訓練(Leg Strength Training:足の筋肉を鍛える運動)やバランス訓練(Balance Training:ふらつきを減らすための練習)と組み合わせて行うことが望ましいと考えられます。


参考文献

  • The effect of diaphragmatic breathing and diaphragmatic mobilization on physical performance, fear of falling, and quality of life in community-dwelling older adults: A randomized controlled trial.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41490262/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

経歴

  • 東海高等学校 卒業
  • 三重大学医学部医学科 卒業
  • 名古屋第二赤十字病院 初期研修
  • 名古屋大学整形外科学教室 入局
    • 名古屋第二赤十字病院、蒲郡市民病院、JCHO東京新宿メディカルセンター
    • 骨折治療・人工関節(TKA、THA)・骨粗鬆症を中心に従事。
  • 専門機関における勤務
    • 足と歩行のクリニック(米国式足医療)
    • 善常会リハビリテーション病院(脳神経リハビリ)
    • もり在宅クリニック(在宅医療)
    • スマートクリニック、元八事整形外科形成外科(一般整形外科、再生医療)
  • SBI大学院大学 経営学修士(MBA) 修了予定
  • Yoリハビリ整形外科 開院予定

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