ACL損傷後のぐらつきや怖さはなぜ続くのか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:ACL損傷後のぐらつきや怖さはなぜ続くのか?
  • 英語タイトル:Disrupted sensorimotor control after ACL injury: from mechanoreceptor degeneration to neuroplasticity-oriented rehabilitation.

ここでお話しする内容は、リハビリテーション(Rehabilitation、けがや病気のあとに機能を回復させるための訓練)や整形外科の外来で、日常的によく問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、そのつど英語名と日本語で説明を加えながら、できるだけ普段の会話に近い形でお伝えしていきます。

目次

結論からお伝えします(今回の研究でわかったこと)

前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL、膝の中で太ももとすねの骨をつないで前後のぐらつきを抑える靱帯)を損傷すると、膝が物理的にぐらつきやすくなるだけではありません。
自分の体の位置や動きを感じ取る能力である固有感覚(Proprioception、関節や筋肉の状態を脳に伝える感覚)や、脳の中で動きをコントロールしているネットワークにも乱れが出てくると考えられています。
そのため、前十字靱帯再建術(ACL Reconstruction、切れたACLを移植した腱などで作り直す手術)を行ったあとには、筋肉と神経を一緒に鍛える神経筋トレーニング(Neuromuscular Training、筋力だけでなく反応の速さやバランスも鍛える訓練)を行い、さらに神経可塑性(Neuroplasticity、神経が経験に応じてつながり方や働き方を変える性質)を意識したリハビリを組み合わせていくことが大切とされています。
こうした方法で「靱帯」と「脳や神経の働き」の両方をもう一度学び直していくことが、再び同じけがをしないようにすることや、スポーツに戻る際の支えになると考えられています。

この結果は何を意味するのか

前十字靱帯(ACL)は、単に膝をつないでいる「ひも」のような組織ではなく、機械受容器(Mechanoreceptors、引っ張られたり曲げられたりする機械的な刺激を感じ取るセンサー)がたくさん集まっている感覚器のかたまりと考えられています。
この機械受容器が、膝が今どの位置にあるか、どの方向にどのくらい動いているかといった情報を、非常に短い時間単位、ミリ秒(1秒の1000分の1)レベルで脳や脊髄に伝えています。
その情報をもとに、太ももやふくらはぎの筋肉がすばやく反応し、膝がガクッとならないように調整しています。
ところが、ACLを損傷すると、こうした機械受容器が変性(Degeneration、組織が傷んで本来の働きが弱くなること)し、脳や脊髄に向かう求心性入力(Afferent Input、体から中枢神経へ向かう感覚の信号)が減ってしまうと考えられています。
その結果、単に膝がゆるくなるというだけでなく、「どのくらい曲がっているのか」「どの方向に力がかかっているのか」といった情報が脳に届きにくくなり、膝全体の機能がより大きく低下してしまう可能性があります。

注意点・限界

前十字靱帯(ACL)を損傷したあとには、関節位置覚(Joint Position Sense、膝が今どの角度にあるかを感じ取る能力)や運動覚(Kinesthesia、動いていること自体を感じ取る能力)が低下しやすいとされています。
その影響で、脳の中でも運動野(Motor Cortex、体を動かす指令を出す部分)と感覚野(Somatosensory Cortex、触った感覚や関節の位置などを感じる部分)のつながり方や働き方が変わる、再編成(Cortical Reorganization、大脳皮質の機能分担が組み替わること)が起こると報告されています。
こうした変化は、片脚で着地したときの筋肉の反応が少し遅れたり、けがをしていない側(健側)の脚も含めて、体全体の動きのコントロールの仕方が変わったりすることにつながると考えられています。
その結果として、再び同じようなけがをするリスクが高まりうる点には注意が必要です。

実際の診察ではどう考えるか

診察や検査の場面では、MRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像装置を使って体の中を詳しく見る検査)での画像や、手術中に見た靱帯の状態に大きな問題がなさそうに見えても、「膝が怖い」「力が入りにくい」「信じきれない感じが続く」といった訴えが残ることがあります。
そのような場合には、前十字靱帯(ACL)の損傷に伴う固有感覚(Proprioception)の低下や、先ほどお伝えした脳の再編成(Cortical Reorganization)が影響している可能性を考えます。
具体的には、関節位置覚(膝の角度をどれくらい正確に感じ取れるか)や、片脚でのバランス、着地動作の様子などを評価しながら、神経筋トレーニング(Neuromuscular Training)をできるだけ早い段階からリハビリの中に組み込んでいくことを検討します。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

経歴

  • 東海高等学校 卒業
  • 三重大学医学部医学科 卒業
  • 名古屋第二赤十字病院 初期研修
  • 名古屋大学整形外科学教室 入局
    • 名古屋第二赤十字病院、蒲郡市民病院、JCHO東京新宿メディカルセンター
    • 骨折治療・人工関節(TKA、THA)・骨粗鬆症を中心に従事。
  • 専門機関における勤務
    • 足と歩行のクリニック(米国式足医療)
    • 善常会リハビリテーション病院(脳神経リハビリ)
    • もり在宅クリニック(在宅医療)
    • スマートクリニック、元八事整形外科形成外科(一般整形外科、再生医療)
  • SBI大学院大学 経営学修士(MBA) 修了予定
  • Yoリハビリ整形外科 開院予定

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