小脳NIBSは脳卒中後の歩行とバランスを改善するか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:小脳NIBSは脳卒中後の歩行とバランスを改善するか?
  • 英語タイトル:Can cerebellar noninvasive brain stimulation improve lower limb function in stroke? Evidence from meta-analyses based on ICF.

ここで取り上げる内容は、脳卒中(のうそっちゅう)の後のリハビリテーションや、整形外科の診療の場面でよく問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、できるだけかみくだいて、普段の外来でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

脳卒中のあとに足の動きが悪くなると、歩く力やバランスが落ちてしまい、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living、食事・着替え・トイレ・移動など、ふだんの生活に必要な動き)に大きな制限が出ます。
そこで注目されているのが、小脳(しょうのう:体のバランスや動きの調整を担当する脳の一部)に対して行う「非侵襲的脳刺激(NIBS:noninvasive brain stimulation、頭の外側から弱い電気や磁気をあてて脳の働きを調整しようとする方法)」です。
この小脳へのNIBSは、リハビリに「補助的に」使える可能性があると考えられてきましたが、「どのくらい効果があるのか」「その効果が実際の生活の改善につながるレベルなのか」は、はっきりしていませんでした。
この研究では、小脳へのNIBSが、脳卒中後の足の機能や歩行・バランスにどの程度役立つのかを、詳しく調べることを目的としています。

調査の方法(対象など)

研究者たちは、医学論文データベースであるPubMed(パブメド)、Embase(エムベース)、Web of Science(ウェブ・オブ・サイエンス)、Cochrane Library(コクラン・ライブラリー)を系統的に検索しました。
その結果、脳卒中の患者さん579人が参加している15本の研究を集めて、まとめて解析する「メタ解析」という方法で評価しました。
評価の枠組みには、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health、国際生活機能分類:世界保健機関WHOが定めた、心身の機能・活動・生活状況などを整理して見るための考え方)を用いています。
具体的には、次のような評価尺度に対する小脳NIBSの効果を調べました。
・FMA-LL(Fugl-Meyer Assessment for Lower Limb:フーグル・メイヤー下肢評価、足の運動機能を細かく点数化する検査)
・Berg平衡スケール(Berg Balance Scale:立つ・座る・片足立ちなど、バランス能力を点数で評価する検査)
・TUG(Timed Up and Go test:タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト、椅子から立ち上がって歩き、また座るまでの時間を測る検査)
・Barthel Index(バーセル・インデックス:食事・トイレ・移動など、日常生活動作の自立度を点数で表す検査)
これらを使って、小脳NIBSがどの程度、機能や生活動作に影響しているかを評価しました。

研究の結果

小脳NIBSを行ったグループでは、「活動」に関する指標で、統計学的には有意な(偶然だけでは説明しにくい)改善がみられました。
具体的には、
・Berg平衡スケールで、平均して約+4点の改善
・TUGで、平均して約−3秒(かかる時間が短くなる方向)の改善
・Barthel Indexで、平均して約+8点の改善
が報告されています。
一方で、足の運動機能をみるFMA-LL全体では、全体としてははっきりした有意差は出ませんでした。
ただし、小脳への高用量のiTBS(intermittent theta burst stimulation:間欠的シータバースト刺激、NIBSの一種で、短い刺激を一定のパターンで繰り返す方法)を用いた条件では、FMA-LLの点数がより大きく良くなる「傾向」がみられました。

結論:今回の研究でわかったこと

この研究では、小脳NIBSによって、「活動レベル」(歩く・立つ・移動するなどの実際の動き)に関しては、統計学的には改善がみられるという結果でした。
ただし、その中でも「臨床的に意味がある」と考えられる、つまり患者さんの日常生活の変化として実感しやすいレベルの変化がはっきりしているのは、主にBarthel Index(バーセル・インデックス)の改善だけと判断されています。

実際の診察ではどう考えるか

小脳NIBSは、検査の点数上は「活動レベル」に統計学的な改善をもたらす可能性がありますが、その効果が日常生活の中でどこまで意味を持つかという点では、現時点では限られたものと考えられています。
そのため、現状では、小脳NIBSはあくまでリハビリテーションの「補助的な選択肢」の一つとして位置づけられます。
特に、高用量のiTBSなど、刺激の条件をよく検討したうえで、標準的なリハビリと組み合わせて使うかどうかを考える、というイメージになります。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

経歴

  • 東海高等学校 卒業
  • 三重大学医学部医学科 卒業
  • 名古屋第二赤十字病院 初期研修
  • 名古屋大学整形外科学教室 入局
    • 名古屋第二赤十字病院、蒲郡市民病院、JCHO東京新宿メディカルセンター
    • 骨折治療・人工関節(TKA、THA)・骨粗鬆症を中心に従事。
  • 専門機関における勤務
    • 足と歩行のクリニック(米国式足医療)
    • 善常会リハビリテーション病院(脳神経リハビリ)
    • もり在宅クリニック(在宅医療)
    • スマートクリニック、元八事整形外科形成外科(一般整形外科、再生医療)
  • SBI大学院大学 経営学修士(MBA) 修了予定
  • Yoリハビリ整形外科 開院予定

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