屈筋腱縫合後の能動運動と他動運動で成績は変わるか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:屈筋腱縫合後の能動運動と他動運動で成績は変わるか?
  • 英語タイトル:Active versus passive rehabilitation after flexor tendon repair: clinical outcomes and shear wave elastography monitoring in a randomized pilot study.

このテーマは、手のけがの手術後のリハビリについてで、リハビリ科や整形外科の外来でよく話題になる内容です。
専門的な話も出てきますが、できるだけ日常の診察でお話しするような言葉で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

【背景】指を曲げるときに働く「手指屈筋腱(しゅし くっきんけん)」という腱(筋肉と骨をつなぐ強いひも状の組織)が切れてしまうと、手術で縫い合わせたあとに行うリハビリの質が、その後の握力(にぎる力)や細かい動きのしやすさに大きく関わると考えられています。
一方で、手術後早い時期から自分で指を動かす「早期能動運動(そうき のうどう うんどう:自分の筋力で動かすリハビリ)」と、セラピストやご家族が動かしてあげることを中心にする「他動運動(たどう うんどう:自分では力を入れずに動かしてもらうリハビリ)」のどちらがより良いかは、はっきりとはわかっていません。
また、Shear Wave Elastography(シアー ウェーブ エラストグラフィ、せん断波エラストグラフィ)という超音波検査の一種で、腱の「硬さ」を数値として測る方法がありますが、この検査が屈筋腱の硬さの評価にどれくらい役立つかについても、まだ十分には確立していません。

調査の方法(対象など)

【方法】指の屈筋腱を縫い合わせる手術を受けた患者さん20名、合計34本の腱を対象にしました。患者さんをくじ引きのような方法で2つのグループに分け、一方を能動リハ(AR:Active Rehabilitation、早期から自分で動かすリハビリ)を行うグループ、もう一方を他動リハ(PR:Passive Rehabilitation、自分では力を入れずに動かしてもらうリハビリ)を行うグループとし、手術後12週間(約3か月)経過を追いました。
評価としては、握力(にぎる力)、ピンチ力(親指と他の指でつまむ力)、巧緻性(こうちせい:ボタンをとめるなどの細かい手の動きの器用さ)に加えて、いくつかの質問票を使いました。
SF-12(Short Form-12、12項目短縮版健康調査票)は、体と心の健康状態を12の質問でたずねるアンケートです。
Duruoz Hand Index(デュルオズ ハンド インデックス)は、手の動きが日常生活にどのくらい影響しているかを評価する質問票です。
Modified Hand Injury Severity Score(モディファイド ハンド インジュリー セベリティ スコア)は、手のけがの重さや機能への影響を点数化して評価する指標です。
さらに、SWE(Shear Wave Elastography、せん断波エラストグラフィ)を使って、時間の経過とともに腱の硬さがどう変わるかも測定しました。

研究の結果

【結果】20名の患者さん全員が、手術後12週までのフォロー(経過観察)を最後まで受けていました。能動リハ(AR)グループと他動リハ(PR)グループのどちらでも、時間の経過とともに握力、ピンチ力、巧緻性がよくなっていき、患者さん自身が答える質問票の結果(患者報告アウトカム)も改善していました。
ただし、2つのグループを比べたとき、SF-12やDuruoz Hand Indexを含む各種の指標で、はっきりした差(統計学的な有意差)は見られませんでした。
また、SWEで測った腱の硬さについても、2つのグループのあいだで明らかな違いはみられず、腱の硬さの数値と手の機能の良し悪しが、いつも一定の関係を示すという結果にはなりませんでした。

結論:今回の研究でわかったこと

この研究では、指の屈筋腱を縫い合わせたあとのリハビリについて、早い時期から自分で動かす能動リハと、動かしてもらうことを中心にした他動リハのどちらを行っても、12週(約3か月)の時点では、手の機能の回復はおおむね同じ程度であったという結果でした。

実際の診察ではどう考えるか

【臨床のヒント】指の屈筋腱を縫い合わせたあとのリハビリでは、能動リハでも他動リハでも、少なくとも短い期間(12週くらい)でみた機能の結果は同じくらいであったと考えられます。そのため、すべての患者さんに一律に早期からの能動運動をすすめるというよりは、患者さんそれぞれの年齢やお仕事、生活スタイル、傷あと(瘢痕:はんこん)のでき方などの背景をふまえて、個別にリハビリの内容や進め方を考えることが現実的と考えられます。
また、SWE(せん断波エラストグラフィ)は、腱の硬さをみる一つの補助的な検査として使うことはできますが、この研究の結果からは、それだけでリハビリの方針や機能回復を判断する道具とは言い切れず、あくまで他の情報と合わせて参考にする位置づけが妥当と考えられます。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

経歴

  • 東海高等学校 卒業
  • 三重大学医学部医学科 卒業
  • 名古屋第二赤十字病院 初期研修
  • 名古屋大学整形外科学教室 入局
    • 名古屋第二赤十字病院、蒲郡市民病院、JCHO東京新宿メディカルセンター
    • 骨折治療・人工関節(TKA、THA)・骨粗鬆症を中心に従事。
  • 専門機関における勤務
    • 足と歩行のクリニック(米国式足医療)
    • 善常会リハビリテーション病院(脳神経リハビリ)
    • もり在宅クリニック(在宅医療)
    • スマートクリニック、元八事整形外科形成外科(一般整形外科、再生医療)
  • SBI大学院大学 経営学修士(MBA) 修了予定
  • Yoリハビリ整形外科 開院予定

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