この記事の要点
- 日本語タイトル:痙性斜頸にはボツリヌス単独とPT併用のどちらが有効か?
- 英語タイトル:Optimizing treatment for cervical dystonia: botulinum toxin alone or combined with physical therapy?
ここで取り上げる「痙性斜頸(けいせいしゃけい)」は、首の筋肉が自分の意思とは関係なく強く縮んでしまい、首が傾いたりねじれたりする病気です。リハビリテーション科や整形外科の外来でよくみられる病気のひとつです。
この記事では、専門的な内容を含みますが、「ボツリヌス治療」と「理学療法(リハビリ)」をどう組み合わせるとよいかを、できるだけ日常のことばでお話ししていきます。
結論からお伝えします(今回の研究でわかったこと)
痙性斜頸の治療として、筋肉の緊張を弱める注射である「ボツリヌス毒素(Botulinum toxin、ボツリヌス菌が作る毒素を薬として使ったもの)」だけを行う場合と、そこに個別の理学療法(Physical Therapy、PT:理学療法士が一人ひとりに合わせて行う運動やストレッチなどのリハビリ)を組み合わせる場合を比べた研究です。
その結果、ボツリヌス毒素の注射だけよりも、「ボツリヌス毒素+個別PT」を組み合わせたほうが、首の動きなどの運動症状だけでなく、痛み、気分の落ち込み(抑うつ)、生活の質(QOL:Quality of Life、日常生活のしやすさや満足度)まで、幅広い面でよくなる可能性が高いという結果でした。
この結果は何を意味するのか
この研究では、「特発性痙性斜頸(とくはつせいけいせいしゃけい:ほかの病気が原因ではなく、はっきりした原因がわからないタイプの痙性斜頸)」の成人の方を対象にしています。
研究の方法は「クロスオーバー試験(crossover trial:同じ患者さんが、時期を分けて2種類の治療法を両方受けて、その違いを比べる研究のやり方)」という形式でした。
すでにボツリヌス毒素A(Botulinum toxin type A:現在よく使われているタイプのボツリヌス製剤)で状態が安定している方に対して、6週間の個別PT(理学療法士による一対一のリハビリ)を追加し、
・首のねじれや傾きなどの運動症状
・生活の質(QOL)
が、ボツリヌス毒素だけの場合と比べてどう変わるかを検討した研究です。
注意点・限界
この研究では、「TWSTRS(Toronto Western Spasmodic Torticollis Rating Scale:痙性斜頸の重症度を評価するための国際的な評価表)」というスコアを使って、症状の変化を数値で評価しています。TWSTRSの「総スコア」は、ボツリヌス毒素だけの場合でも、ボツリヌス毒素にPTを追加した場合でも、どちらでも改善がみられました。
一方で、TWSTRSの中でも「障害度(どのくらい日常生活に支障が出ているか)」と「痛み」の項目については、ボツリヌス毒素にPTを追加したほうが、統計的に意味のあるレベルで、より大きな改善がみられました。
また、「CDIP-58(Cervical Dystonia Impact Profile-58:痙性斜頸が生活にどのくらい影響しているかを詳しくたずねる質問票)」というQOLの評価でも、ボツリヌス毒素にPTを加えたほうが、より大きな向上がみられたという結果でした。
このように、評価表の数値上は差が出ていますが、研究の対象は「特発性痙性斜頸の成人」であり、すでにボツリヌス毒素A治療が安定している方に限られています。そのため、すべての痙性斜頸の方にそのまま当てはまるとは言い切れない点には注意が必要です。
実際の診察ではどう考えるか
痙性斜頸の治療では、まず「ボツリヌス毒素の注射」を基本的な治療として考えることが多いです。これは、過度に緊張している筋肉に注射をして、その筋肉の力を一時的に弱めることで、首のねじれや痛みを和らげる治療です。
今回の研究結果からは、首の動きだけでなく、痛み、気分の落ち込み(抑うつ)、生活の質(QOL)といった、日常生活に直結する部分までしっかり良くしていきたい場合には、ボツリヌス毒素の注射に加えて、個別のPT(理学療法士による一人ひとりに合わせたリハビリ)を同時に行うという「セットの治療」として提案する考え方が示されています。
実際の診察では、症状の程度や生活スタイル、通院のしやすさなどを一緒に確認しながら、「注射だけにするか」「注射にPTを組み合わせるか」を相談して決めていくことになります。
参考文献
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Optimizing treatment for cervical dystonia: botulinum toxin alone or combined with physical therapy?
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41483253/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

